Dr.インタビュー「湯島診療所」

Dr.インタビュー「湯島診療所」 画像

上天草市立湯島診療所 石塚俊紀 先生インタビュー

上天草市大矢野町の港から船で約30分で到着するのは、建物が密集する坂とネコの島・湯島。周囲約6.5km人口365名(平成26年4月時点)の小さな島のへき地診療所に常勤で働いているのが、石塚先生です。日本の高齢化社会の縮図ともいえるこの島で、島唯一の医師として働く石塚先生に、“へき地医療”の現状や課題を尋ねました。

yushima_01

先生はどのような経緯で、
湯島診療所へ赴任されたのですか?

yushima_02

私は球磨郡あさぎり町出身で、小さな頃から地域のかかりつけ医の先生の姿を見て育ってきました。地域医療に役に立つ存在になりたいと思い、自治医科大学へと進学しました。卒業後は熊本赤十字病院で初期研修を受けて救急や総合診療を多く経験した後に、公立多良木病院に2年勤務して地域の拠点病院も経験。その後、県からの派遣で湯島へと来ることになりました。街から山、そして海へと、環境もがらりと変わりましたね(笑)。医療だけでなく地域との繋がりや福祉、保健との連携を考えたいと思い、へき地への転勤を希望していたので、学生の頃見学で訪れたことがある湯島への異動は嬉しかったです。離島という環境も魅力的でした。

へき地医療に携わって
良かったと思う時は、どんな時ですか?

yushima_03

小さな島ですので、患者さん、というよりも島民の方との距離が近いのが楽しいですね。住み込みで常勤医として働いているので、私も一島民として島の行事に参加したり、飲み会の仲間に入れて頂いたりします。診療所に来られる方も、体調のことはもちろんですが、生活のことや家族のことまで、よろず相談処になっているような感じですね。お野菜を頂いたり、子ども達が気軽に遊びに来てくれたり、ネコと触れ合えたりと、癒される場面も多いです。

現場で働く医師として思う、へき地医療の問題点を教えてください

やはり都市部と地域との医療環境の格差の大きさを感じますね。特に湯島の場合は“島”という立地で、救急車すら乗り込めない土地。救急の場合の対応のスピードがどうしても遅くなるし、血液検査も船で島外の病院に運んで調べるので、翌日にしか結果がわかりません。また、私のように常勤医なら良いのですが、現在の県のへき地診療所のほとんどが非常勤体制なので、さらに患者さんが受けられる医療の質やスピーディーな対応に制限が出ると思います。地域で受けられる医療の質やスピードをいかにして高めるかというのが、大きな問題点だと思います。

他病院とは、どういった連携体制が組まれていますか?

入院や精密検査、救急搬送などで「済生会みすみ病院」と連携しています。救急の患者が発生した場合、緊急性が高い場合は漁船など貸し切りの船を手配して港まで移動し、そこから救急車で搬送します。また湯島にはヘリポートがあるので、さらに緊急性が高い場合はドクターヘリの受け入れも可能で、症状によっては市内の病院まで搬送される場合もあります。いずれの場合も、搬送先の病院まで私も同行します。緊急性の高さや状態の見極めを即座に判断しないといけないため、救急や総合診療などをしっかりトレーニングしていないと、湯島での常勤医は厳しい部分も多いと思います。

へき地医療ならではの患者さんへの接し方はありますか?

湯島は人口に対する高齢化率が56%で、島内の小中学校の児童生徒数は7名と、高齢化社会の縮図のような人口バランスです。その中で島民の飲酒・喫煙率が高く、また島の主産業である漁業で採れた刺身の醤油や名産・湯島大根の漬物などを頻繁に食べるため、塩分摂取量も多い傾向にあります。高血圧や脳卒中などの重大疾患にもつながるため、生活習慣病予防のために食生活の改善から働きかけたいのですが、いきなり今の食生活を頭ごなしに否定しても聞き入れてもらえないものです。ですので、島民の方々と信頼関係を築くことから始めています。そうして仲良くなったところで食生活についてアドバイスをさせて頂くと、少しずつ興味を持って頂けるようです。さらに、子ども達の食生活もケアできるよう、小中学校(校医も兼ねています)で栄養バランスの大切さを伝える活動も行っています。
また、高齢者の方は薬を処方通りに飲まれなかったり、逆に飲み過ぎてしまう場合も多いです。ですので、診療に来ていただく際は残っている薬を持ってきてもらうようにお願いしています。そうしてお話ししながら薬の残量をチェックすることで、継続して適切な量の薬を処方できるように努めています。
さらに、往診日があるのもへき地ならではかもしれません。湯島の住宅地は急な坂の中に家が建てこんでおり、お年寄りにはつらい立地ですので、こちらから訪問診療する患者さんも数名いらっしゃいます。とはいえ、徒歩で一周できる小さな島ですので、そんなに苦ではありません。

yushima_04 yushima_05

今後の課題点を教えてください

湯島診療所は島民365名に対して、私と看護師2人が常駐。看護師さんたちはずっと島に住んでいる方々です。高齢者が半数以上の島なので、疾患も複合的になる場合が多く、介護なども関わってきます。島にはヘルパーさんは1人しかおらず、船でデイサービスの人は来てくれるものの、島の中に介護福祉の拠点もなくケアマネジャーさんなどもいないため、そのような相談事への対応や、在宅の看取りまで看護師さん達が担う場合もあります。ですので、彼女たちへの負担の大きさが少し心配です。これを解消するのはマンパワーだと思いますが、医療従事者を増やすというよりも介護福祉や保健など、地域ぐるみでサポートする体制の構築が大きな課題だと思います。

今後、取り組んでいきたいことを聞かせてください

島民の方が「いつまでも島で生活できる」環境作りに努めたいですね。高齢化が進んでいるこの島では、50代〜60代の方が70代以上の方を支えているような状況です。高齢の方の介護が必要になると、それを診る介護者の負担も大きく、結局、島を離れて施設に入らざるを得ません。それでも施設に入れるなら良いのですが、要支援や要介護1〜2程度の方の場合はさらにサポートが難しく、介護者となる働き盛りの年代の人の生活すら不安定になってしまいます。この方々を支えるには、診療所だけではどうにもなりません。地域包括支援サポートの体制をもっと強化して、配食などの民間サービスや保健師、社会福祉士などの協力を得て、介護する側もされる側も島で日常の生活を無理なく過ごせるような地域になればと思います。

yushima_06
湯島診療所 石塚俊紀先生の一日
yushima_note