鳥越俊太郎リポート リポート 第1回

鳥越俊太郎リポート リポート 第1回 画像

鳥越俊太郎 リポート 未来(あした)へ―。ともに歩む くまもと地域医療

地域医療のあるべき姿を目指し 医療、介護、行政、そして地域が連携を

「どこに住んでいても、同じように医療や介護がうけられる」。切れ目のない医療を目指す熊本県の地域医療・在宅医療の今を、ジャーナリストの鳥越俊太郎さんとともにリポートします。
今回は、上天草市立湯島へき地診療所を訪ねました。  取材・文/坂本ミオ

島に一つの診療所に「イケメン先生」!?

「今日はどぎゃんですか?」「風邪はひいとらんですね」。笑顔で患者さんに尋ねるのは、上天草市立湯島へき地診療所の前田幸佑医師(30)。「イケメン先生ばい」と、ずっと年上の患者さんたちから慕われています。
大矢野本島と島原との間に浮かぶ湯島は、周囲約4キロメートルの小さな島。島内の人口399人のうち65歳以上が215人と、高齢化率は53%を超えています。それだけに島に一つの診療所は大事な役割を果たしています。
昭和46年に設置された同診療所には、昭和55年までに4回、短い時で2カ月、長い時は10カ月という医師のいない時期がありました。現在は、県の医師派遣により1名の医師が診療所隣に住み、診療に当たっています。

イケメン先生
「先生がおんなはるから安心」。1日の平均患者数は24人ほど

地域医療ならではの患者に寄り添う医療を

患者に寄り添う医療
急な石段を登っての往診。95歳の患者さんのもとへ

湯島へき地診療所で2年を過ごした前田先生。地域に溶け込んで初めて分かることもあったといいます。「ただ単に病気を診ればいいということではない。その方の人柄、性格、人生…それら全てくみ取った上で診察をしないといけない、ということを学ばせてもらいました」
着任当初は、医師として「最先端の医療を提供したい」と考えたといいます。しかし次第に「往診で患者さんの暮らしぶりに触れたり、世間話の中から情報を得ることで、よりよい医療が提供できる。これが地域医療ならではの魅力、やりがいだと思うようになりました」と。
そして「皆さんが喜んでくださる言葉、笑顔が、自分にとっての喜び」と語る前田先生。「それが励みとなって、もっともっといい医療を提供したいと心が熱くなる」と、頼もしい限りです。

意識を変え、連携して「地域力」をアップ

しかし、地域医療には厳しい現実もあります。湯島島内の独居老人は74世帯。また、認知症の方も増えています。「診療所だけではどうしてもやっていけません。行政と医療と介護が三位一体で連携してやっていかなければ」。そこで前田先生は自ら声をかけ、役場の人たちとの定期的な話し合いや、済生会みすみ病院(宇城市三角町)との連携に取り組み始めました。
一方で、地域の皆さん自身の意識の変革にも期待しているといいます。「地域の方が自ら、地域を支え、守る。そういった意識が大切。考え方を変えないといけない時期に来ているのでは」と、課題を提起します。「だからこそ、病気を未然に防ぐ取り組みや、介護に関する啓発も大事だと考えています」
医療と行政や地域住民などがともに協力・連携して、“地域力を付ける”ことが求められています。

report-05
電気治療を受ける人たち(奥)。手前には歯科治療設備も。月に2~3回、大矢野町から歯科医師が診療に

鳥越EYES地域も一緒に取り組みを

高齢化が進行する中、地域医療を確立するため、医師の確保は日本全体の課題です。熊本県も例外ではないと思います。
今回、前田先生から話を聞き、自治医科大学や熊本大学医学部附属病院との連携や医師派遣の仕組みなどの対策が講じられていることが分かりました。
また、「近所の町医者へのあこがれから医師を志した」という前田先生。患者さんの気持ちに寄り添いながらの診療ぶりは、理想的な姿に見えました。しかし充実感とともに、最先端の医療から遅れるのではという不安もあるはずです。
そういった若い医師を支援することを含め、医師を迎える意識や環境を整えるなど、地域も一緒に取り組むことが求められていると思います。

鳥越俊太郎 サイン

鳥越 俊太郎

1940年生まれ。福岡県吉井町 (現うきは市) 出身。88年4月から 『サンデー毎日』 編集長。89年の退職以降、テレビメディアに活動の場を移した。2005年、ステージ4の大腸がんが発覚。転移を経て4度の手術を経験しつつも、10年からの筋力トレーニングによってがん罹患前以上の健康を得て活躍中。